★このページの情報は、NPO法人レジリエンス作成オリジナル資料の一部を改変して掲載しています。文責はユアチャーチ池田にあります。文中の「☆さん」とはDVや虐待の被害者のことを指しますが、自分自身で輝く力を持っている人という意味で、敬意を込めてそう読んでいます。「Bさん」は加害者のことで、暴力を振るう人という意味の英語のバタラーの頭文字を取っています。
「ドメスティック・バイオレンス」「家庭内暴力」「虐待」と聞くと、世間一般では、殴ったり蹴ったりする激しい身体的暴力だけが想像されがちです。でも、暴力の種類はもっと多く、世間一般では暴力として認知されないような暴力でも、心を深く傷つけるものがたくさんあります。
●身体的暴力
身体的暴力には、直接体に危害を加える直接的なものと、体に触れなくても体に影響を与える間接的なものがあります。
<直接的な身体的暴力>
殴る 蹴る 首を締める 平手打ち 噛みつく 突き落とす 火傷をさせる 水をかける 引きずる 揺さぶる 髪をつかむ 壁に叩きつける 凶器を使う など
<間接的な身体的暴力>
眠らせない 必要な治療(服薬・通院)をさせない 置き去りにする 寒い日に家から追い出す 薬物やアルコールを強要する 必要な飲み物や食べ物を与えない 長時間正座をさせる トイレに行かせない など
●性暴力
世間一般的には「性暴力=強姦・レイプ」ととらえられることが多いですが、たとえ配偶者やパートナー、交際相手であっても、相手の意志を尊重しない性行為は全て、性行為ではなく性暴力です。
性暴力による心の傷つき、トラウマは、心の特に深い部分に入りがちです。性に関することはもともととてもプライベートなことで、人前で話にくいですが、そこに暴力が加わることで、より話しにくくなってしまいます。それがケアを難しくしているということも、性暴力によるトラウマが残りやすい原因かもしれません。
でも、少なくとも、☆さんが「自分がもっと〜だったら違う結果だったかもしれない」などと、自分を責めるのは必要のないことです。世間では「☆さんも最初は同意したから」「☆さんが抵抗しなかったから」など、☆さんを責める言葉をよく聞きますが、☆さんの意志を尊重しなかった加害者に全責任があります。
●経済的暴力
生活費を渡さない、☆さんのお金の使い道を細かくチェックする、☆さんはBさんの許可がないとお金が使えない、☆さんのお金を使い込む、Bさんが働かない、☆さんに無理やり働かせる、☆さんは働きたいのに働かせない、無断で借金をする、無理やり☆さん名義の借金をさせる、など。
経済的暴力は、外から見て裕福な暮らしをしているように見える家庭でも起こります。大きな家や高級車があっても、Bさんが☆さんに最低限の生活費しか渡さないので、☆さんは毎日節約を迫られていることがあります。
●精神的暴力(モラル・ハラスメント)
精神的暴力またはモラル・ハラスメントは、主に「言葉や態度による暴力」を指します。
言葉の暴力は☆さんを精神的に疲弊させ混乱させます。「とんでもないバカだ」「あきれてものも言えない」など、☆さんの人格を否定するような言葉や、☆さんの自尊心を奪うような言葉は、それだけで心に深い傷つきを与えます。
また、他人に説明するのが難しい、ネチネチしたやり方をする加害者もいます。
たとえば、加害者の中には、「話し合い」の名目で、自分の意見がいかに正しいか、☆さんの意見がいかにおかしいかを延々と何時間も言い続け、☆さんの意見を一切聞こうとしない人もいます。☆さんは疲弊して、混乱してしまい、「あなたの言う通りだ」と言うはめになります。加害者はそれを「話し合いで決めたこと」として扱います。
また、☆さんの小さな失敗を☆さんが一番罪悪感を感じる方法で攻撃してくる加害者もいます。たとえば、一緒に外出する際、外出先で必要なものを☆さんが忘れたのを知っていながら、何も言わず、到着寸前になって「まさか忘れていないよね?」と言って怒ります。「忘れ物をしたことを怒った」というだけではモラハラかどうか分かりにくく、☆さん自身も「自分が悪かった」と思いがちです。でも、☆さんを攻撃するためにわざと黙っていたという行動には明らかに悪意があり、精神的暴力だと言えます。
一つ一つは小さなエピソードだとしても、こういうことが重なっていくと、最初は抵抗していた☆さんも、だんだん「やっぱり自分がおかしくて相手が正しいのかもしれない」と思うようになってしまうことが起こります。
(どんな種類の暴力も精神的な傷つきを与えるという意味では精神的暴力であるとも言えます。)
●デジタル暴力
携帯電話やスマホ、インターネット、SNSを使った暴力も増えています。
☆さんの携帯を勝手にチェックする、☆さんの誹謗中傷をネットに書き込む、電話(メールやライン)にすぐ出ないとキレる、GPS機能で☆さんの行動を監視する、居場所が分かるように写メを要求する、SNSに☆さんになりすまして書き込む、など。
●ストーカー行為
「家の前をうろつく」「郵便物やゴミをあさられる」「無言電話がかかってくる」「帰宅した瞬間に電話が鳴る」「SNSを監視される」「玄関先に花束が置かれている」「ありえない時/場所に相手が現れる」など、ストーカー行為のほとんどは法律では違法とされないことが多く、警察が戸惑って対応されないことが多くあります。
でも、これらの行為が繰り返されることは、☆さんには大きな恐怖をもたらします。どこで何をしていても安心できなくなり、どこに行ってもストーキングされれば、「世界のどこにも逃げ場はない」と追い詰められていきます。
ストーカー行為の規制のためには、日本の法律と社会が変わる必要があります。海外の基準で重要なのは、①その行為がパターン化しているか?(何度も繰り返されているか?)②恐怖感があるか? の2点です。①については書面での記録が重視されます。②については、日本では被害者の感じ方を軽視する傾向にありますが、変わっていく必要があります。
このように、暴力の種類はたくさんあります。でも、テレビなどのメディアでDVとして報道されるのは、ほとんどの場合、☆さんが殺されたり大怪我をした後です。その結果、世間一般では「DVとは命を落とすほどの悲惨な身体的暴力」というイメージになりがちです。それは、実際に起こっている暴力全体のほんの一部分に過ぎません。